「初めての方ははじめまして〜。いつも読んで頂いている方は、お世話になってま〜す。県立浅川高校演劇部一年、笹山七草(ささやまなぐさ)です」
「同じく演劇部二年、三島淳平(みしまじゅんぺい)」
「……一年の川崎大悟(かわさきだいご)です」
「三年で部長の栗山聖(くりやまひじり)と言います」
「はい! 今回は何故、このようなSSを立ち上げたかと言いますと……川崎君、宜しくです」
「……この作者にとって、最近、密かに大きなウェイトを占めつつある『演劇部シリーズ(仮称)』を一度整理しようと思ったんだそうです。
 このシリーズはEver17本編終結後の世界を舞台とし、倉成先輩(ホクト)と沙羅先輩が主役の『県立浅川高校双樹祭』が皮切りでした。そこで笹山さんと部長が初登場し、その続編、『無限の時を越え行く者達』で僕と三島先輩が加わり、その中のコメディ性を特化しようという主旨で制作を続行しました(現在、『俊秀兄妹凡庸譚』『俊秀兄妹活劇譚』『ミニコント十本勝負 独走編』『田中教授の華麗なる日常(川崎大悟ゲスト出演)』の計四本)。
 ですが、このような只のコメディを読むために、あの異様に長い『無限の時を越え行く者達』を読んで頂くのは心が痛いんだそうです。しかし、一応は続き物と言うことで、二の足を踏んでおられる方もいるのでしょう。
 ……しかし、この作品はキャラクターの立ち具合さえ把握して頂ければほぼ完全に読み切れますので問題ありません。……と言いますか、内容がありません」
「それは言い過ぎじゃないか……?」
「それで……七草君、どうするって言うんだい?」
「そこで今回は、私達演劇部員が、どういう人間なのかを理解して頂くため、ミニコントと通常SSの中間みたいな感じで、何本か送らせて頂きます。初めての方には『入門書』。いつも読んで頂いている方には、『小ネタ集』みたいな感じに出来れば良いと思っているみたいです」
「それはまた真面目だね」
「この作者、五年に一度くらい真面目になるんです」
「オリンピックより少ないのかよ……」
「……ハレー彗星が近接するよりは多いです」
「視点は全て倉成先輩(ホクト)で行きます。それでは、はりきって行きましょう〜」


【笹山七草編】
「倉成先輩♪」
「……やぁ……七草ちゃん……」
 とある日の放課後、ぼくは演劇部の後輩、笹山七草(ささやまなぐさ)ちゃんに声を掛けられた。その声色はかなり弾んでおり、彼女の心情が手に取るように分かる。
「今日は沙羅先輩、居ないんですよね♪」
「うん……」
 沙羅は今日、ちょっとした用で部活を休んでいる。まあ、そのこと自体に何の問題も無いんだけど……。
「と言うことは……今の先輩は自由で気ままで独身貴族っていうわけですよね?」
「……別にぼく、沙羅の尻に敷かれてるわけじゃないんだけど……」
 そう見えるのかな……?
「……ところで、倉成先輩……何でさっきから後退りしてるんです?」
「え?」
 言われて始めて気付いた。ぼくは少しずつだが後退している。
 無意識のうちに危機を回避しようとしているのか……?
「それって印象悪いですよ。ああ……私のグラスファイバーの様に繊細な心は傷付きました」
「……微妙に頑丈なんだけど……」
 七草ちゃんは突っ込みを無視して、額に左手の甲を当てると、大仰な動作でその場に座り込んだ。流石は演技派だと、感心してみたりする。
「……ちょっと大袈裟でしたね。それで先輩。今日、一緒に帰りません?」
「……」
 ……これか……。
「……七草ちゃん、分かってるとは思うけど、ぼく、付き合ってる人いるんだよ?」
 これがユウにバレたら、ぼくの命なんて、鯨にとってのプランクトンみたいなもんだ。
「見つからなければいいんです。人生とは常にリスクを背負って生きていくものなんです」
「……」
 『違うよ、七草ちゃん。ぼくはリスクを背負わされてるんだ……』
 声に出す勇気はなかった。


【栗山聖編】
「おや……ホクト君。どうしたんだい?」
「……部長……いえ……ちょっと七草ちゃんに……」
 とりあえず事の顛末を栗山聖(くりやまひじり)部長に伝えた。
「……成程……まあ、はっきりと断らなかったホクト君が一番悪いんだけど――」
「……」
 さりげなく毒を吐かれたことが、少し気になった。
「……そこも含めてホクト君の良いところだからね。いいんじゃないかい? 別に万一見つかったところで、まさか、別れるまではいかないだろう?」
「……ぼく、この歳で死にたくはないです……」
「……」
 笑えない冗談なんかじゃない。切実な問題なんです。
「……まあ、それは置いておいて――」
「置いておかないで下さい!」
 思わず、声を上げてしまった。
「……結構、わがままだね」
「……」
 絶対に違います。


【三島淳平&川崎大悟編】
「よぉ、倉成。何、沈んでんだ?」
「……」
 面倒な奴に捕まってしまった……。
 声を掛けてきたのは、クラスメートでもある三島淳平(みしまじゅんぺい)。横には、一つ下の川崎大悟(かわさきだいご)もいる。この二人は、三島がボケて川崎が突っ込むと言う、典型的な漫才型コンビだ。
「……別に。沙羅がいないから、ちょっと寂しいだけ」
 こうなったら、もう自棄だ。
「……ちっ」
「……何さ、その露骨な舌打ち?」
「あぁ!? い・い・よ・な! 慕われまくってるお兄様はよぉ!?」
「……何で凄んでるのさ……」
「……テストの点が芳しくなかったので、機嫌が悪いみたいです」
「……」
 器が小さいなぁ……。
「――で、倉成。ほんとのところはどうなんだ?」
「……何の話?」
「沙羅ちゃんと何処までいってんだ?」
「……」
 一度、本気で殴り合いしなきゃ駄目かなぁ……?
「……はぁ……あのね。ぼくと沙羅は単なる兄妹。そしてぼくの彼女は田中ユウ――これ以上、話をややこしくしないでよ」
「倉成……お前、分かってないな」
「……何がさ?」
 三島の言葉に、つい言葉を返してしまう。
「真実なんてどうでもいいんだよ。ゴシップってのは騒ぎ立てるのが楽しいんだ」
「……」
 久々に心の底から沸き上がる殺意にも似た衝動を抑えることが出来たのは、ぼくが少しは大人になった証拠なんだろうか……?


【栗山聖&笹山七草編】
「ふむ……すると、譲る気はないと言うことだね?」
「当然です。恋って言うのは、互いの欲望を賭けた、侵略で侵攻で侵犯なんです」
「……」
 何やら物騒な会話をしている部長と七草ちゃんの元へと歩み寄ってみた。
「……ホクト君。七草君と少し交渉してみたんだけどね……君と帰る意志に変化はないそうだ」
「鬼の居ぬ間に洗濯です」
「……それ、使い方、正しいの……?」
 とても微妙に思えた。
「ふう……流石に、部員から死人を出すわけには行かないからね……こうなったら、抜本から作戦を変えよう」
「……どういうことです?」
 部長の奇妙な発言に、考え無しに問い掛けてしまった。
「……つまり、ホクト君。君は普通に七草君と下校すればいい」
「……はぁ……?」
 良く分からない。
「……そして僕と……そうだな……三島君辺りで、君の彼女、ユウ君を監視する。PDAを用いてお互いの現在位置を把握しておけば、かち合うことも無いだろう」
「……」
 そ、そこまでするんですか……?
「……一応、念のためだ。大悟君を君達の側につけよう。七草君、この程度の妥協案でどうだい?」
「了解です」
「……」
 こうして、ぼくの同意は全く得られないまま、『七草ちゃん下校プロジェクト』は、決行の時を迎えたのであった。


【三島淳平&笹山七草編】
「……三島……そっちの様子はどうだい?」
「鳩鳴館女子大を出たところを追跡してる……心配すんな……見たことのある女を見間違う俺じゃない……」
「……こっちの町に来る気配は?」
「……今のところは無さそうだ……このまま追跡を続行する……」
「……宜しく」
 PDAに一声掛けると、回線を切って、ポケットに収めた。あちらから連絡が来れば振動で知らせてくれるので、とりあえずは待機といった感じだ。
「三島先輩、楽しそうでしたね」
「……多分、探偵気取りなんだろうね……下手な尾行をされて、気付かれる方が怖くなってきたよ……」
 うやむやの内にこうなったため、こんな基本的な落とし穴に気付かなかった。まあ、部長と一緒だから、そう無茶なことはしないと思うけど……。
「で、倉成先輩♪ どこ寄ります?」
「……は? 一緒に帰るだけでしょ?」
「むむむ……そういうこと言ってると、無粋で無骨で野暮ったいって思われますよ。女の子が一緒に帰りたいって言ったんです。ウィンドウショッピングくらい付き合って下さい」
「……ぼくとしては、危険が大きくなるのはちょっと……」
 偽らざる本音を口にしてみた。例えユウ以外であっても、共通の知人に会うのは、あまり好ましい状況ではない。
「大丈夫です!」
「……その根拠は?」
「私、悪運には自信があるんです!」
「……」
 論理的根拠はないのね……。
 ぼくは、小さく溜め息をついた。
「……あれ?」
 ぼくは、何かを知覚した。
 目の前の書店から姿を現したのは、栗色のショートカットが特徴的な、十人居れば十人は振り返りそうな美少女だった。
 と言うか、ユウこと、田中優美清秋香菜……。
「……!」
 ユウはぼくの存在を認知すると、華麗なステップで間合いを詰め、右ストレートを顔面に叩き込んできた。
 反論の余地さえ与えないその狂暴さを、ぼくは薄れ行く意識の中、再認識していた。


【川崎大悟&笹山七草編】
「……と言う訳で、部活の買い出しに来ただけです」
 こちらの世界に返ってきたぼくの耳に入ってきたのは、聞き覚えのある声だった。
 これは……川崎……?
「あ、あはは……ホクト、ごめん!」
「……」
 ゆっくりと身体を起こすと、ユウが両手を合わせて、顔を俯けている。どうやら、川崎が上手いこと誤魔化してくれたらしい。これ以上血を見るのは御免だし、心の中で感謝しておいた。
「いや、いいよ……ちょっと間が悪かっただけだし」
 大人の態度でこの場を収めておく。ややこしくなるのはあまり好きじゃない。
「ほんとにごめん! あ、そうだ。お詫びになにか奢ってあげようか?」
「うん……嬉しいんだけど、学校に戻らなきゃなんないから……」
「あ、そうか……じゃあ、また今度ね」
 手を振って、この場を走り去っていくユウ。
 ……まあ、今晩にでも電話を入れておけばいいだろう。
「……ふう……何とか、収集しましたね」
 七草ちゃんは額の汗を右腕で拭っていた。
 ……怯えるくらいなら、初めからこんなことしようなんて考えないでよ……。
「……それにしても」
「……ん?」
 川崎の言葉が耳についた。
「……三島先輩達、何してるんでしょうか」
「そ、そうだよ! 三島だよ! あいつ、口だけで全然役に立たないな……」
 憤りは、全て三島へと向かっていた。
「……三島先輩が見違えるほど、瓜二つな女性でも居たんですかね?」
「……え?」
 ……あ……もしかして……。
「……心当たりでも?」
「う、ううん」
 慌てて、首を振って誤魔化した。あまりに露骨だが、川崎の性格からして、深く突っ込んではこないだろう。
 ま、そういう訳で、ぼく達は三島に連絡一つを入れて、学校に帰ることにした。


【三島淳平&栗山聖&川崎大悟編】
「なんだと!? 俺達が追っていたのは別人!?」
「うん……そう言えば、ユウに、とても似てる女の人が同じ学校に居るって聞いたことあるよ……」
「くっ……不覚……この俺ともあろうものが、女性の見極めに失敗するとは……」
「……」
 まあ、髪型が違うとはいえ、あの二人を一見しただけ、それも遠目で見分けられたら、それはそれで凄いことなんだと思う。
「……まあ、大事に至らなかったみたいで良かったよ。鼻のアザは御愛敬だね」
「ええ……」
 とりあえず苦笑するしかなかった。
「それで、今日はこれで解散なのか?」
「……どうするの?」
 って言うか、学校に集結しただけでも、無駄と言えば無駄なんだけど……。
「……つまらん! こうなったら、倉成! てめえを出汁にして、徹底的に盛り上がってやる!!」
「……いつもやってることと変わりませんね」
「……」
 川崎の小さな呟きに、ぼくは思わず大きな溜め息をついてしまった。


「如何だったでしょう? 私達のキャラクター、少しは把握して頂けたでしょうか?」
「……もし、この作風に興味を抱いて頂いたのであれば、『俊秀兄妹凡庸譚』『俊秀兄妹活劇譚』『ミニコント十本勝負 独走編』をお読み頂ければ幸いです」
「それと、主役ではないが、大悟のキャラ立ちが一部で好評の『田中教授の華麗なる日常』もお勧めしとくぜ」
「……では、この宣伝を以って後書きに変えさせて頂きます」
『また会いましょ〜』
SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送